PBN No.139コラム「妖怪博物館 / Museo Mitológico “Ramón Elias” 」

　日本人には馴染みの深い「妖怪」。古い言い伝えの中に今も生きる、不可思議で説明しがたいこの存在は、古くから芸術家たちの興味の対象として、多くの芸術作品の中にも描かれている。それらを題材にした浮世絵や漫画、アニメなどの作品を誰もが一度は目にしたことがあるだろう。

　日本の民間信仰において、人間の摂理、自然、また万物に宿るとされる「神」の存在を、妖怪という描写を通じて、私たちは幼い頃から無意識のうちに感じ、生きているのかもしれない。例えばワールドカップを見たパラグアイ人に、「何故、日本人はスタジアムを掃除をするのか？」と聞かれたことがある。もちろん、それが当たり前、いわば習慣だからである。教育やテレビ・報道からの情報で促されたからである。しかし、それ以前に日本人の私たちにはゴミで埋め尽くされたスタジアムを憂う、もしくは憤る妖怪の姿を安易に想像することができるだろう。

　スタジオ・ジブリの映画が世界で人気を博すのは、日本人特有の「物の怪」による戒めや、自然への敬意を教訓にして、生きるというメッセージが共感を得ているからではないだろうか。妖怪を知れば、国民性がわかる。それほど単純ではないとはいえ、古い言い伝えからその土地の意識や習慣の一部を読み取ることができる。

　パラグアイでも、先住民族であるグアラニー族の神話の中に「Mitos」と呼ばれる妖怪が登場する。パラグアイの人に「Mitos」について尋ねると、皆、まるで実在するかのように興奮して語り出す。パラグアイでも不可思議で説明のつかない存在である妖怪は大衆文化の中で、多くの人に愛されると同時に、恐れの対象となり、語り継がれ続けている。

　国道二号線の首都から19km地点、Capiatáという町に「Museo Mitológico Ramón Elías」というパラグアイの妖怪博物館がある。アラブ系移民の血を引くR・Elías氏は1929年にアスンシオンで生まれ、美術学校に進学した後、古い美術品の修復や研究を行った。1960年代末からCapiatá国立大学の教授を務めたことをきっかけに、この地に移り住み、パラグアイ先住民族文化の仮面作りや展示を行ったという。そして、アンティーク美術品の修復のため、全国を回る旅の中で神話の世界に魅了されていく。膨大な資料に目を通し、日々文化研究に没頭した。今日、パラグアイの人々に語り継がれる「Mitos」のイメージはこの博物館に展示されている彼の彫刻によって可視化されたといっても過言ではない。館内には、妖怪たちの両親である邪神Tauと眠りの神Keranáを筆頭に、その七つ子の長男で、犬の顔をもつ竜のTeju Jaguaや、子供をさらうJasy Jateré、夜の妖怪の意名を持つPomberoなど、人気の妖怪たちの彫刻が並んでいる。

　同氏のグアラニー文化研究においては、イエズス会の植民地時代や三国同盟戦争及びチャコ戦争もまた、重要な題材となった。1979年に一般公開が始まったこの博物館では、植民地時代のキリスト教関連の美術品や、戦争時に使用された器具や銃器の展示も行っている。先住民族の文化、植民地支配からの独立、戦争まで、パラグアイが歩んだ歴史を通じ、民族アイデンティティーを再評価して伝承するにあたり、R・Elías氏の彫刻作品や収集古美術は貴重な資料であるといえる。81年に他界した後も、彼のプロジェクトは家族や仲間によって引き継がれ、現在も家族連れから外国人観光客まで、来訪者が絶えない。

　国道沿いの小さな私立妖怪博物館、展示数は少ないとはいえ、アンティーク家具や彫刻作品は美しく、見ごたえがあり、敷地内には子供の為の遊び場や駐車場も併設している。パラグアイの文化伝承とアイデンティティーに向き合い、一生を捧げた一人の美術家の作品に触れ、神話の世界を想像することで、この国の持つ価値観や古くからの習慣を理解する第一歩となるかもしれない。TT

Museo Mitológico Ramón Elias

Km. 19 de la Ruta Nro. 2 Mcal. Estigarribia

電話番号：0228 634 262

営業時間：平日・土曜8:00～17:00、日曜 8:00～12:00

入館料：10,000Gs（大人）5,000Gs（子供）

https://goo.gl/maps/aFHpp59VuT52